NPО法人銀座ミツバチプロジェクト 前理事長 田中淳夫氏と同志社ミツバチラボ
取材日:2021/12/22

日時:2021年12月22日(水) 11:15~12:15
場所:同志社大学 志高館
出席者:
田中淳夫氏(全国ミツバチ会議代表/NPО法人銀座ミツバチプロジェクト 前理事長)
同志社ミツバチラボ 依田、松榮、西口、内藤

松榮)都市養蜂を始める時に反対もあったと聞いていますが、田中さんの説得する力に関心があります。どのように周囲を説得されてきたのですか?
田中)黙ってやるという選択肢はなかったので、ミツバチは危なくないとか、花はどこにあるかとかしっかりと説明責任を果たしてきました。ミツバチの生態は人間とすごく似ています。ミツバチは集団で生きていて、常に会話をしています。人間も一人では生きていけません。ミツバチから学ぶことがたくさんあるのではないですか、と疑似的に説明をしていました。
松榮)都市養蜂を通じて、コミュニティができあがると思うのですが、コミュニティの楽しさはどのようなところにありますか?
田中)レストランや飲食店、バーやクラブなど1200の団体のみなさんとネットワークが出来上がった頃に、ミツバチプロジェクトを始めることになりました。銀座には世界で名だたる一流の技術を持った人たちがいるわけです。
ミツバチを通してつながっていけば、銀座の魅力がもっと理解されるのではないかと思いました。人と人との多様なネットワークがどんどんつながっていく、都市養蜂をしていてその面白さを感じました。

内藤)今までもハチミツを作って売るNPO活動はありましたが、銀座ミツバチプロジェクトは、バザーなどで売る以外の方法を提示したというのが画期的でした。
田中)ハチミツが収穫できるのはとても大きいことです。私は都市に暮らしているので、町の皆さんに使ってもらうのがいいと思い、商品開発をして頂きました。都市養蜂の活動自体を持続可能にするためにも、キャッシュにしていく必要もありました。ハチミツが収穫できることも、都市養蜂が全国に広がった理由の一つだと思います。
内藤)ハチミツができるまでの物語があるのもすばらしいと思います。
田中)「マツコの知らない世界」の番組で、マツコさんがハチミツを食べた後 に、ミツバチが一生の間に集める量を食べましたよ、と伝えたら、むせられたということがありました。ハチミツを食べる時には、唾液でゆっくり溶かしながら、ミツバチが満開の花におりていくシーンを想像して下さい、と伝えています。

依田)ミツバチ=環境と思い込んでいましたが、話を聞けば聞くほど、飲食や福祉の連携など思いがけないことが起こるのが面白いと感じました。
田中)ミツバチは、太古の昔からコミュニティをつくって生きてきたわけです。誰から教わるわけでもなく、膨大な時間をつかって、自分たちが生きていける完璧な世界を作ってきました。ミツバチのハニカム構造がロケットの構造体に使われていることからもわかるように、ミツバチから学べることは多いと思います。

西口)昔はアニミズム型の社会で、まず自然があり、その上に共同体、その上に個がありました。工業化が進み、今は個が共同体から切り離されてしまいました。私は同志社大学の屋上で、ミツバチを育てることを通して、ライフスタイルや持続可能な生き方を学んでいるのだと感じています。
田中)コロナ禍は精神的なストレスになっています。大企業で精神疾患の社会的ロスが8兆円あります。8兆円は農作物の売上とほぼ同じです。先日、順天堂大学の先生が講演で、生き物や自然に触れたりすることで、ストレスホルモンが急速に下がり、幸せホルモンがあがると話をされていました。もしかしたら、私たちの生活に自然環境を取り入れることで、壊れているものを修復する力があるのかも知れません。
西口)都市養蜂は人と自然とのかかわりを修復することができるかもしれませんね。自分たちが普段研究室で議論しているソーシャル・イノベーションの視点からも興味深いです。

田中) コンテンポラリーアートの第一人者である東京画廊の山本さんから、「田中さんがやっていることは、知性を身体化させているのだ」と言われたことがあります。つまり、頭で考えたことを都市養蜂で形にして見せているということです。アートをしていたのかと驚きました。
パリ、ロンドン、ニューヨークでもアーティストが都市養蜂をしています。クリエイティブな世界とつながっていくとまったく違った世界観になります。突き抜けていけばどこまでも新たな価値を生んでいく世界です。それは都市養蜂をする都会でしかできないと思います。
全国のミツバチプロジェクトの仲間が、都市養蜂にはいろいろな可能性があることを発信していくことができたら面白いと考えています。